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マッサージ師・武井【青春編】(完)
武井はこの大学の3年生だった。
とは言っても真面目に授業に出席したことは入学以来数えるほどしかない。
自分では法学部に在籍していると思うのだが、それも確かではなかった。

所属しているサークルの悪友に呼び出されては毎夜酒を呑み、
昼間は時間を持て余してこの公園をうろつくのが最近の日課になっている。
公園は小学校と隣接していて、
平凡なブランコにベンチ、植栽があるだけの面白くもない作りだったが
都心にこれだけの無駄なスペースが残されているのは案外貴重なことかもしれない。

いつのまにかここが、
武井にとって唯一心を落ち着けることのできる空間になっていた。
今日、自分が何をすべきか。
ここにいるとそんなことはどうでもよくなった。

それにしても頭が痛い…
でも腹は減っている。これは動物の本能だ。

武井は行きつけのラーメン屋「龍龍軒」へ出向いた。
最近は好物の辛子高菜が別売りになったことがちょっと不満だ。

サラリーマンや学生がごった返している昼間から
渋々食券を買った辛子高菜でビールを飲む。パブロフの犬だ。
-2-
マッサージ師・武井【青春編】(完)
      【序章】


御茶ノ水駅前は今日も人通りが多かった。

武井はポケットに手を突っ込み、点滅し始めた信号をぼんやりと眺めながら
交差点の雑踏を歩いていた。

…頭が痛い。
昨晩の記憶がないのはいつものことだ。
でも普段と少し違っていたのは
昨晩の記憶が「完全」に抜けているということだ。
気が付いたらここにいたのだ。

頭が痛いということは、酒を呑んだのだろう。

誰かに呼び出されて家を出たのまでは覚えている。
花沢だろうか、大空だろうか、いや、早川だったような気がする。
そして「白い何か」を見たことも覚えている。

一体、昨晩何があったのだろう。
そんな事を、とりとめもなく考えながら歩いているうちに公園に着いた。
公園はM大学駿河台校舎のちょうど裏側に位置している。
-1-
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